白光事象/荷花
ゆうらりみつめるゆめを見始めた。
そこがわたしの息づく世界、そこはわたしの息つく世界。
そして見つめる彼の名を、精霊(しょうりょう)と言いけして死人(しびと)の戻りなどではないと聞かされたそのときわたしは、嗚呼やはり彼は戻り来なかった、戻り来ることは叶わなかつたのだとそう、安堵するほどに最後の絶望を知り得たが、これ以上はないと思った絶望のそのまだ先に、広がる道は覗き込めば覗き込むほど計り知れず、怖ろしく深く暗い。
夏蝶飛ぶ夏の午后、もう戻り来ぬ君の姿した精霊は、わたしを伺いながらちらちらと、ましろい向日葵の間を行つたり、来たり。
見つめるにも飽いた。常世か知らぬ伽藍を訪れるも飽いた。もうどこにもいきたくない。
ましろいちへい。ましろいじしょう。ましろい、かれ。
わたしのあいしたかれがしに、わたしもまたその焼場のけむりにどうかして、ましろくきえていったにちがいない。
――夏の午后。夏蝶飛ぶ、夏の午后。
すべてきえてしまえばいい。
気怠く蚊帳吊る蚊遣りのけぶり。
床付いたわたしにましろい彼、向日葵の影より、――ふくり、と、笑む。
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