雨の朝、高野山にて/渡邉建志
 
打った。

次の日の朝、僕らは二人で真言密教の儀式(500円、真っ暗な中で偉いお坊さんのお経とお話を聞き、お経を書いた紙を授けられる)を受けに行った。それから、金剛峯寺に入って、さっきの儀式のこととか、襖絵のこととか、大学で何を勉強しているのかとか、そんなことを話した。瞳の澄んだきれいな女の子だった。それから、彼女の本に載っている胡麻豆腐やさんにいって胡麻豆腐を食べて、それから別れた。別れ間際に、彼女は赤い傘の下ですこし考えてから、「名前は?」と聞いてくれた。僕は答えた。「渡邉さんは、」と彼女は言った「きっと頭がいいから考えすぎるんですよ。考えないでやってみたらきっとうまくいきますよ。」そうだろうか、よく分からないけれど、彼女はとても幸せそうに見えた。そんな人が僕を気遣ってくれるというのは、とてもうれしかった。幸せが僕にも分け与えられてくるような気が少しした。

後ろを振り返って、赤い傘が歩いていくのを見ながら、さっき挨拶したことば、「いつかどこかで」を思い出した。本当に、いつかどこかでまた会えたらいいな、と思った。連絡先なんか、聞けなかったのだけれど。
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