猿の来る釣り場/K.SATO
 
僕は何者でもなく
あるだけの影
街に 出てはみたけれど
植物ですらないのだと わかった

釣り場のある近所の港には
今日も猿たちが立つ
演技する潮風の中
家族の待つ山へ 逆立ちを

白波がびゅうびゅう逆立ちを刻む
彼らはいつも がたがた裸で
小銭を蓄え生きている
僕は人でありたいが 人ではなく
ああなるこうなると言うだけで
拍手すら出さずに眺めてきた

なぜあんなにはつらつとできるのだろう
でも 僕が手を叩くとき
君らは明るい色をしてくれるのか
それとも暗い色か
ちがうな

うち寄せた強い波風に
逆立ちの端っこが崩れかけた

迷い 出られないままに自分を
曲芸する小さな道化たちに見てきた
腕を組んだまま嘲笑っていた
唇の端をせりあげて
俺は僕なのだと 微笑みはなく
自分を捨てて生きている汗の
命の濃さが見えなかった

パス と
僕の手と手が重なっていた
微かな音は
ざわめきの一点となり
カチ と
長く閉ざされてきた心のドアが
強くほほえんだ顔をした気がした
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