僥倖/鮎
この夜を渡る
さかなたちは眠りをしらない
そういうふうに作られたから
それを不自由だとも思わない
・
時計台の上で
ねじまき係の少年が
ただ夜を巻きつづける
そういうふうに作られたから
それを 厭ったりはしない
夜虫がまた夜に還っていく
闇色の結晶の体
溶けていく 消えていく
そういうふうに作られたから
それを 悲しんだりしない
機織りの娘が 神さまの衣を
ひとり つむぐ
白と えめらるど と 群青
ひかる糸が 娘の頬をきらきら照らす
そういうふうに作られたから
[次のページ]
戻る 編 削 Point(4)