僥倖/
 
この夜を渡る

さかなたちは眠りをしらない

そういうふうに作られたから

それを不自由だとも思わない







時計台の上で

ねじまき係の少年が

ただ夜を巻きつづける

そういうふうに作られたから

それを 厭ったりはしない


夜虫がまた夜に還っていく

闇色の結晶の体

溶けていく 消えていく

そういうふうに作られたから

それを 悲しんだりしない


機織りの娘が 神さまの衣を

ひとり つむぐ

白と えめらるど と 群青

ひかる糸が 娘の頬をきらきら照らす

そういうふうに作られたから
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