( 病棟の屋上にて ) /服部 剛
群衆は「悪」を免れぬ、羊の群
国も、病院も、街も、荒んだ牧場・・・
その昔
人体実験の手術に
加われず執刀医の背後で
怯えたまま青白い顔で立ち尽くす
一人の医学生がいた
気弱な彼は
病棟の夜の屋上で独り
脳裏に消えぬ詩句を
繰り返し呟いた
羊の雲の過ぎるとき
蒸気の雲が飛ぶ毎に
空よ お前の散らすのは
白い しいろい 綿の列
人の心の悪の世を
全て剥ぎ取る日
一体何が残るだろう・・・
組み合わせた両手を額にあてて
彼は祈り続ける
荒んだ牧場の夜空に
あの星が、瞬きますように・・・
屋上の柵に項垂れて
真っ暗な海に射す
一筋の月光を
じっと見つめて
* この詩は遠藤周作「海と毒薬」
(新潮文庫)を参考に書きました。
* 引用の詩は「海と毒薬」の文中で抜粋した
立原道造の詩句です。
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