スーパーにて/吉田ぐんじょう
いるのかも知れない
やっぱいいです
と返そうとしたら床に落としてしまった
ちょうど駆けてきた男の子がそれを踏み殺し
うわきったねえ
とか言っている
店員さんは後始末をしながら
安っぽい同情ならしない方がいいですよ
とひくく呟いた
何か言った方がよかったんだろうか
でも何も言えなかった
・
スーパーで支払いをしようとして
財布を開くと
隙間から去年のレシートがはらりと落ちた
そこには
モメン トウフ×10 68円
計 680円
とだけ印字されていて
わたしは去年
なにをそんなに悲しがっていたんだろう
思い出そうとしても思い出せないのである
脳裏には
みっしりとした木綿豆腐を
パックのままあぷあぷと
立て続けに食べる
自分の背中がありありと浮かぶ
しかしわたしは自分の背中を
いつどこでどうして見たんだろう
記憶の中の自分の背中は心持ち猫背で
思っていたよりもずっと小さかった
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