音速の壁/1486 106
風のような人だったから
劇的に目の前に現れて
戯曲のように去っていった
ただそれだけのことなのに
最近体調が優れないせいか
秋の夜が長すぎるせいか
周回遅れの孤独なレース
巻き返す手段が見つからないよ
きっと二人は最初から違う空を見ていて
ただそれぞれの目的地へ歩き出しただけ
どんなにスピードを上げても届かない
当たり前だった頼もしい背中には
枯葉の敷き詰められた遊歩道も
家から五分のプラットホームも
「淋しい」なんて形容しなかった
思い出は日々薄らいでいく
変わりなさいと町並みは急かす
自分だけが取り残されたみたいで
張り詰める空気の冬の朝に
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