卵百景/錯春
 
頭上に無数の血管が走っている
赤と紫色と灰色の線が網目状の影をアスファルトに落とす
空は脈打つ彩りに覆われていくつにも分断され
そのどれかひとつすら私のものではない

都会は大きな卵型をしている
5年前上京したばかりの頃は驚いたりもしたが
今はそんなことよりも気にすることが出来たので
そんなには気にならなくなった
私たちは忙しい
誰かが今日もどこかで
意識的に鈍感であろうとしている

冷めたトーストを齧りながら
仮病で小学校を休んだあの子
ママは目一杯の愛を置き去りにして
仕事にいってしまった


孵化しかけのガチョウの卵を
蒸して食べる料理がある

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