恋する香り/かのこ
 
甘ったるい香りがする石鹸を買ってしまった
ピンク色の泡とともに湧き立つその香りは
苺みたいに美味しそうで
乙女を恋する気持ちにさせる

甘酸っぱい記憶に連れて行かれる
涙で洗い流してしまう、あわい恋の色

目を閉じて、思い浮かべる愛しい人
その香りも声も、髪も、指先も、鎖骨も、腕も、呼吸も、寝顔も、口癖も、まばたきも、眼差しも、歩く速度も、奏でる音も、優しい言葉も、優しくない言葉も
あたしにあずけて欲しかった全部全部
今からあたしは失うのに、その全部を

あたしはブルーの吐息を吐くのに
恋する香りが、切なくてどうしようもない

あなたが二度と知ることのない
新しいあたしの香りを纏ってしまう
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