子供ではないのだから/鈴木
 
 少しずつ目蓋を上げよう。唇の形に広がっていく眼界には自室の玄関から去ろうとする女、幾人ものイメージが重なり識別することができない。色濃いものから抽出してみるか。生島先輩は再び目を閉じた。まず一人目を念じるにマスカラ、アイシャドウ、頬紅、口紅、グロスけば立つ女がなにか言った後ぷいと背を向ける。これは今しがた共に寝た人で名は藤崎なにがし、口説く前は頭頂部にまとめていた茶髪の見事な形へと惚れ込んだものだが、解いてみれば見る影なく平凡な女でガリガリと胸も小さかった。これはいけないと思った。やはりある程度のボリュームは欲しいものである。励む際の声は鶏のようだったが知性は人並みに優れており就職先には大手新聞
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