昨日は孤独な世界?/錯春
 
女は人間が個々を判別するべく名前という薄皮な個性を用い出した瞬間に、同時に自分だけの悲劇をも欲したことを知らない)

ミカヨはもう恋人の名前を忘れていた。
彼女の恋人は、彼女を自らの完全な所有物とするために、友人らに彼女の身体を提供することを許可したのだ(もちろんそんなことを彼女は知らない)。
それによって彼女が永遠に離脱してしまうことも予測できないほど、恋をしていた。
または、悲劇的な自分を夢見ていた。

(会いたい会いたい今すぐ会いたい。胸の底からほどけていって、息すら止まってしまうような、あの人に会いたい。

でも、いったい誰に?)

彼女は見当もつかない。
(仮に思
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