<SUN KILL MOON>-through/ブライアン
 
人」だった。「井戸」という壁を越えて、「自分」と「他人」は触れ合う。互いに侵入する。「井戸」を。月の光を。「自分」と。通り抜けたのは「自分」となった、「他人」だった。「他人だった自分」だった。

 渋谷、センター街、朝。太陽は月を貫く。月は微かに空にあった。ティルマンスが望遠鏡を使って、月までの距離を貫いたように。物資を。媒体を。その後に続くものを、通り抜ける。「井戸」を越える。月の光を越える。太陽へ。その向こうへ。乾いていたのだ。求めていたのだ。触れよう、と。
 何に触れようとしたのだろう。何を求めたというのだろう。「他人」と、月と、「自分」が触れた時、風は乾いていた。きっと、風は乾いていたはずだろう。

柱も庭も乾いている
今日は好い天気だ
エンの下では蜘蛛の巣が
心細さうに揺れてゐる

 中原中也「帰郷」


乾いた風は、蜘蛛の巣を揺らす程度だった。だが、体を通り抜け、奪う。求めていたのだ。揺らす程度の力を。「他人」との接触を。「他人」への侵入を。
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