恋愛詩の教科書として読む『黒田三郎詩集』/イダヅカマコト
 
事を書く
●好きな人の描写はしない

例えば、4行の連が6つ続く『もはやそれ以上』を例にしてみます。
{引用=もはやそれ以上

もはやそれ以上何を失おうと
僕には失うものとてなかったのだ
河に舞い落ちた一枚の木の葉のように
流れてゆくばかりであった

かつて僕は死の海を行く船上で
ぼんやり空を眺めていたことがある
熱帯の島で狂死した友人の枕辺に
じっと坐っていたことがある

今は今で
たとえ白いビルディングの窓から
インフレの街を見下ろしているにしても
そこにどんな違った運命があることか

運命は
屋上から身を投げる少女のように
僕の頭上に落ちてきたの
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