( 秋の日の断章 ) /服部 剛
私は今日も、顔を洗う。
両手で覆った顔を上げて
目に映る何でもない日常が
常に真新しい(今)であるように
*
もう会うこともない
ある人が
いつか何処かで言いました。
「
詩人は二度、旅をする
自らの歩む道と
手にしたペンで表す
一篇の詩の中を
」
*
独り立つ木の緑を背後に
金木犀の花々が
星々になる
秋の黄昏
公園のベンチに腰かけ
愛読書の頁を開く
文字列の行間に
浮かぶ
空白の道
いつか誰もが吸いこまれる
「死の扉」へと
続くひとすじの道を
登場人物は歩く
*
私は今日も、顔を洗う。
空から日に照らされた
道の上に立ち
地に伸びる影によって
浮かび上がる私は
一人の尊いきせきです。
戻る 編 削 Point(5)