夏の向こう側/AKiHiCo
まだ残暑厳しい午後の事です
蒸し暑さに喉をやられて
ちゃぽん、という音が部屋を埋めて
洗面器にビィ玉が1つ沈みました
わたしが落とした物ではありません
洗面器は横たわるわたしの頭の横
タオルを入れてありました
蝉が鳴きやむ頃に一緒にいきたかった
けれど、
わたしを残して蝉は先立ち蒼に染まって
空を昇ってゆきました
春が過ぎ
夏が訪れ
過ぎ行く時刻を窓で見つめ
秋を孕みだした頃
わたしはもうこの部屋で呼吸を
していない筈でした
案外わたしが思うのは
世間で必要とされていない生命は
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