6/カフカ
赤い風船みたいな顔をした男がぼくの目の前に立っていた
喉に針を刺したら萎んで窓から飛んでいきそうな顔だった
男が邪魔で外の景色が見えない、どうせ霞んだ風景だろうけど風船を見るよりは幾分ましだ
ぼくは他にやることもなかったので読みかけの小説を読むことにした
主人公が赤い風船に変わっていた
ぼくは溜め息をこぼして本を閉じ
ガタガタ揺れる鉄の箱の中を観察することにした
どの席にも誰かが座っていた
立っているのは風船だけだ
浮かんでいるのかもしれない
それから赤い風船が嫌いになった
今まで、特に好きというわけではなかったが、特に嫌いというわけでもなかった
ぼくは赤い風船に針を刺す想像をしてみた
奇妙な音を立てながら鉄の窓を越え、田園風景のなかを漂う赤い風船
ギリギリスは太陽が落ちてきたのだと勘違いし、しきりに鳴き
少年は虫取網を持ってそれを追いかける
一陣の涼しい風が吹き、風船は空高く飛んでいってしまった
さようなら赤い風船
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