彼岸/榊 慧
 
た会社をやめた。
祖父は何故か英語が読め、戦前はそれはそれは女子に好かれていたと生前俺に語った。俺の記憶の中の祖父はおだやかでユーモアのあるやさしい老紳士でしかなかったけど、祖父の兄弟や祖父が若かった時の写真に写っている男の人は、みな似たような顔立ちではありながら、凛々しく格好の良い美男だった。
俺には想像することしか出来ないけどあの時代、大抵の人が楽に生きていくことは出来なかったと思う。祖母は俺の歳には工場で休みの日もなく働いて、それでも勉強していたという。戦争が終わってからもがむしゃらに働いて働いて勉強して、嫁いだ先での女の人の身分はとんでもなく低くって、でも頭もものすごく切れてそして烈女
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