真珠いろの月の晩に/月下美人
 
海のきぬ擦れが耳を攫う

だれかに名前を呼ばれた気がしたから
水の色が碧から黒に変わるころに
海豚のやさしい瞳を胸に抱えて
こっそりと宙(そら)に顔を出してみた
鳥の嘴が白の甲羅を遠慮がちにコツコツと叩く音
魚たちはいいないいな羨ましいなといいながら
ひれの脚でひらひらと泳ぐ
懐かしい面差しの白の光がわたしを捉らえて
辺り一面を取り囲うように掬う
わたしはくるくると踊りながら
星屑の螺旋を身に纏う

目一杯回したのに
いつかはきっと人魚も海へ還って行ってしまう
オルゴールの蓋を閉じてしまえば
広がるのはただ空虚な闇ばかり
それでもどんなときでも
この夜があるから生きていられるのだと
そう想える



唄は、終わらないよ
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