聖母子像/天野茂典
 
    聖母子像

   霧のなかをわたしは母の手に
   ひかれ ながれるもやの
   街道を歩いていた
   それは途方もないかなたへの
   流離譚のようにおもわれた
   母が世界の蔦のように霞みながら
   やさしくわたしの手をひいている
   あいまいな時間のなかで
   確かなものはなにもなかった
   おさないわたしと母だけが
   ピンのように止められて
   明るいハレ−ションを起こしながら
   独楽のようにゆれていた
   わたしたちは録音されないテ−プであり
   記録されない映像だった
   この霧のなかでわたしたちは逸れてしまった
   もやだった 街道は乳のように隆起していた
 
 

     
[グループ]
戻る   Point(3)