共感装置の勝利/岡部淳太郎
る恋人同士のロマンチックな会話に見えるものの、中盤あたりから様相が変ってくる。それは「ふつうの街さ」以降の詩行だ。「運河があって/長い塀があって/古びた居酒屋があった」と街の風景描写がある後で、「のんでたら/二階からあの男が/降りてきたんだ」「黒い外套の/おれの夢さ/おれはおもわず匕首を抜いて/叫んじゃった/船長 おれだ 忘れたかい?」という詩行がつづくが、この部分は男の心象あるいは深層意識を表した詩行であり、どこか現実的ではない雰囲気を漂わせている。それもそのはずで、ここで男が語る街は現実の街ではなく、「おれの夢さ」とあるように、男の心の中にのみ存在する幻なのだ。そう考えると、男女二人の会話であ
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