海釣りの日/三州生桑
 
父と私は、海の底で蟹を捕まへようとしてゐた。蟹は絶好の釣り餌になるのだと、父は言ふ。釣りを楽しむためには、まづ蟹を獲らねばならない。小さな蟹が何匹も足元を這ってゐるが、触れることすらできない。逃げる時のすばしっこさと言ったらゴキブリ並みだ。当惑する私の耳をかすめて、細長い魚が泳いでゆく。

海底をカモメが一羽、のんびりと歩いてゐた。私は驚嘆する。よく息が続くものだ。父はカモメを捕まへると、水面に投げ上げてやった。カモメは白い海老を吐き出しながら、空へと帰って行く。蟹を早く捕まへなくては。
手のひら大の蟹が悠然と近づいて来る。左のはさみが異様に大きい。私は石を蟹に投げ付ける。蟹の甲羅は砕け、卵
[次のページ]
戻る   Point(1)