つぎに/影山影司
 
糞、イライラする。軍曹は薬を分けてくれなかった。不安定な感情が心の基盤をぐらぐらと蝕むようだ。

 折り重なって倒れたビルが行く手を阻む。軍曹は何も言わずに這いつくばり、開けっ放しの窓を潜った。自分もついていく。建物の中は全てのものが九十度傾いている。床に手をつき壁の上に立つと、自分の視界が狂ったような気がする。朽ち果てた家具を蹴飛ばして軍曹が走る。陰鬱な無精顔の癖して、妙に生き生きとして見えた。「通信兵」「何でしょうか軍曹」「昇れ」前には壁があった、人一人分ほど上に、扉がある。軍曹は両の指をガッチリと組んで、両手をバレーのように構える。「了解しました」その手を踏んで、跳んだ。ドアノブに掴まり、捻る。そのまま壁を蹴って、反動でドアを開けてするりと入り込んだ。
 扉が閉まらぬよう、体でつっかいをしたまま軍曹を引っ張り上げる。
「行こう」
 横たわった廊下を走る。銃声は止むことなく続いていた。
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