はじめに/影山影司
 
極秘任務にて、小隊監視下より離れることになる。なぁに夜には帰ってくるさ、絶対にな」
 救護兵は黙って銀膜に覆われた薬剤を二回分キッチリ切り取ると投げて寄越した。
「ありがとう救護兵」
「クリスだ」
「ありがとう、クリス」
 クリスは既にでこぼこの地面を走り出していた。俺のことなど、昨日の晩飯程度にしか憶えていないだろう。俺もそうだ。お互い、今の会話が嘘だらけだって知っている。極秘任務だなんて嘘。夜になれば帰ってくる、というのも嘘。朝、薬を飲み忘れた。これだけ本当。
 二回分の薬を押し出して奥歯で噛み砕く。十分もすれば脳味噌はシンプルにクリアーを迎える。我々ピーポーの持つべき精神を会得す
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