林檎愛好/木屋 亞万
、彼が大好きだった林檎の花と果実を棺桶にたくさん納めていた。彼の姉は泣き崩れながら、彼が愛用していた白いハンカチを納めていた。私も大きく形の良い林檎を綺麗に磨いて納めた。それは彼が欲情するような上質な林檎であったと思っている。
最後に皆様に勘違いしてもらいたくないのは、彼がただの林檎愛好家ではないということである。イヴを愛するがゆえに、林檎を愛した。林檎愛好こそが彼のささやかな、そして唯一の愛情を発露する方法だった。親族はそのことを忘れていたのか、あるいは知らなかったのか。告別式という場であるにも関わらず、遠回しに彼を林檎馬鹿扱いする者が多かった。私は彼らの態度に憤慨し、また悔しくもあった。そして私は、彼の崇高な愛好の誤解を解くために、彼への手向けも兼ねて、筆を取ったという次第である。
これほどまでにイヴを愛した現代のアダムが無事に、イヴの世界にたどり着けるよう願ってやまない。
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