林檎愛好/木屋 亞万
 
 男はイヴを堪らなく愛していた。人類最初の女性に清純の輝きを見ていたのだろう。だが、イヴに近付きたいと日々願い続ける彼の願いが叶うことはなかった。自分がアダムであったなら、どれだけ幸福だったことだろう。アダムへの嫉妬と羨望の狭間で、男は自分をアダムと呼ぶようになった。
現代のアダム(自称)はイヴに対して盲目的な愛情を注いでいた。しかし奇跡などでは到底敵わぬ程に、イヴは触れられぬ存在であった。夜空の星に手を伸ばしたとして、あるいは努力を重ねその星の一つに接近できたとして、始めから星は手に入るような大きさではない。同じように、現代のアダムの努力はイヴには絶対に届かない。その距離は乙姫と彦星よりも遠く
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