夏の終わりに吹く風に 2/十重山ハルノ
 
と「ごめんね」と言ってしまった私も。そして、強がりだけでできてしまった世界に生きるには、私たちでは脆弱すぎたのだ。

 彼を家に呼んでしまった日、彼は、ランドセルを目にして「やっぱダメだわ。別れよう。もう会わないでおこう」とだけ言った。一瞬にしてランドセルを灰にできる方法があればいいのに、と私は思った。けれど、そのすぐ後に脳裏を掠めたのは、夫と子供のことだった。私は、彼を家まで送る間中、夫と子供に謝罪した。何度も、何度も、謝罪して、私は泣いていた。傲慢な謝罪だと思った。落ち着きがなくなった私はタバコに火をつけて、やがて車内が煙に巻かれた。窓の方に顔を向けていた彼は、「俺さ、本当はタバコあんまり
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