夏の終わりに吹く風に 2/十重山ハルノ
運転席側の窓を開けると、雨がアスファルトの塵を吸って蒸発した匂いが流れ込んできた。夕暮れまで降っていた雨は、真夜中過ぎの蒸し暑さに変わった。信号の向こうに見える、大きな洋菓子の看板の隅には温度計が付いていて、少し滲んで見えたけれど19.6度を示していた。風は私のタバコの灰をさらって、助手席に居る彼のカーゴパンツの上に落ち着いた。彼は頬杖を付いて窓の外を見ていた。きっと、窓の方に顔を向けていたと言ったほうが、正しいのだろう。おそらく彼は、彼と、私と、私たちのことを考えているはずだから。赤信号のタイミングで、タバコの灰を払った。灰は、私が払った分だけ伸びて痕を残した。彼は「ごめん、ここで」と言った。
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