男の走る距離は、/ブライアン
 
呼吸がつらかった。走ったところで意味なんかないだろう、と。だが、男は走り続けた。考えすぎたのかもしれない、と男は思う。両手を口元に運ぶ。荒く乱れた息は温かかった。その手で冷えた体を摩る。腕の力を抜いて、だらりとたらす。姿勢を正す。残り2kmだった。覚悟ができた。男は走り続ける。
 男は襷を握ったまま地面に座り込んだ。肩で息をする。後ろから来る走者がアンカーに襷を渡す。その光景をじっと見ていた。体は熱かった。汗が噴出してくるのが分かる。道を挟んだところ、チームメイトが男を呼ぶ。男は声のほうを向いた。笑う。男は手に握った襷を高く掲げる。透き通る空だ。チームメイトも同じようにこぶしを握り手を空に掲げた。
 
 表彰式の始まりのアナウンスがスピーカーから聞こえてくる。男たちは会場を逃げ出す。拍手の音が会場から聞こえた。チームカラーのピンク色のジャージに着替えた男たち。辛いラーメンば食べにいかね、と男は言う。会場の横に並んだ自転車に乗り、男たちは街へ走り出す。
 
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