イワン・デニーソヴィチの一日/パンの愛人
 
きる時代は、あまりにとおくかけ離れてしまっているわけだ、すくなくとも「実感」というレベルにおいては。
 「イワン・デニーソヴィチの一日」はソルジェニーツィンの処女作にあたり、そのタイトルが示すとおり、主人公イワン・デニーソヴィチのラーゲリでの一日を、朝の起床から夜の就寝まで時間軸に沿って記述しただけの、物語の構造としてはごくごく簡素なものである。しかし、キャラクター豊かなさまざまな登場人物によって、ロシア社会そのものが浮かび上がってくる仕組みになっていて、けっして読み手を退屈させない。「私はもうラーゲルにいた時分から、その生活の一日を描くことを心に決めていたのです。トルストイはかつて、まる一世紀
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