蝉とコロッケ/yuma
 
そうもない。失敗。
上手く行きませんでした。空想は終わり。自分への示しとして、わざと唇を尖らせた。
「どうしたの?」
ドキリとして振り返る。いつのまにか彼が後ろにたっていた。そして思う。
いつ帰ってきたの?あれ、もしかして私一人遊びを見られていた?恥ずかしい。おかえり。ああ、頭の中だけのことなんだから彼に解る訳ないや。汗だくだね。暑かったの?でもどうしたのって聞かれた。先お風呂入ってくる?ビール冷えてるよ。何か答えなきゃ。やっぱり恥ずかしい。今日のご飯はコロッケだよ。
驚きと気恥ずかしさで口をパクパクとさせていると、ぷっ、と吹き出して彼が言った。
「なんか、しじみみたいな顔してるね。」

ぱくぱくと動き続けていた口が、開いたまま止まった。
だとしたら、あなたは蝉かしら。







作中の引用は角川書店発行の伊坂幸太郎『グラスホッパー』90ページ2行目より
蝉とは人物の名前で通称のようなもの

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