蝉とコロッケ/yuma
 
台所に向かい、買ってきたばかりのコロッケを油槽に入れる。
油はねが怖くて身構えるが、コロッケも、油も、おとなしいものだった。
その代わり、ぷくぷくぷくぷくぷくと小さく水泡を立てた。
珍しいこともあったものだ。と私はしげしげとコロッケを見つめる。
新品の油は黄味がかっているが透明だ。まるで水の中で息をしているようにも見える。
そういえば、そんな小説が昔、無かったろうか。
{引用=
台所に向かい、買ってきたばかりのしじみをボウルに入れる。
砂を吐き出させるために、水を入れた。夕食の支度まで、放っておく。
じっと器を見下ろすと、ぷかっ、ぷかっ、と泡が水面に浮かんできた。しじみの呼吸だ。
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