■老犬へ/千波 一也
 

そんなことを思い出しました。



3日前くらいから、でしょうか。
老犬は、とうとうご飯を食べなくなりました。

「痛みはない、感じない」
という獣医の話だったそうですが、
ハァハァと、
苦しげに重たげに、
老犬は呼吸を繰り返していました。



「長生きしなさいね」

子どもの頃にかけた言葉を、
この犬は忠実に守ったのかもしれません。

でも、
さすがに苦しそうで痛々しい姿の老犬に、

「もう、じゅうぶんだよ。
 帰るのを待っていてくれたんでしょう?
 ながいあいだ、よく頑張ったんだから、
 疲れたら、
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