やさしい/鈴木
氷河の夜に
人、鳴動
かつて吼えたのは犬であった
白雲に閉ざされた暗色の宙を透けていく声は長い頭ゆえに耳の有無を己が羽で確かめることができない自称フクロウの考究に一抹の進歩をもたらした。彼の学説は葉身の楕円形が凄艶と評判のキバナシャクナゲによって一笑に付される。笑声を聞きつけた猛禽博士、外面無毛の花弁を噛みちぎって復讐したりと笑みを漏らす瞬間に瞠目して振り返る。
淡黄色した君を傷つけるとき
俺は
耳のことを忘れていた
歌
は気流に乗って上昇し
凝結し星を巡り降り注ぎ
溶け土に染み
とある蘖に受け取られる。数時間前に芽吹
[次のページ]
戻る 編 削 Point(1)