街の住人/ブライアン
 
は、思い出もまた同じだ。熱を反射する景色ばかりだ。緑の山も、川の流れる音も、夕立の暗闇も雷も雨も風も、薄れていく。輝かしい思い出だと、自慢するばかりだ。光り輝くガラスのように。

路地の家のことごとくは、軒下に木の鉢を置き花を植えていた。愛しかった。秋幸は川原に立ち、男を見ながら、その路地に対する愛しさが、胸いっぱいに広がるのを知った。長い事、その気持ちに気づかなかった、と秋幸は思った。竹原でも、西村でもない、路地の秋幸だった。

「枯木灘」 中上健次


街は、繋がりを絶つ。すれ違う人は何者でもなかった。熱を帯びるこの道の上で、祈り、愛し、生きることを望むばかりだ。歩くスピードを感じ、足の裏にすれる重力を見出し、ビルを見上げることをやめる。タバコの煙は闇に消えた。消えた煙ほどの事ではない。窓越しに見える煙に会釈する。人は忘れないのか。忘れないことに意味はあるのだろうか。忘れたとしても、忘れなかったとしても、何者でもない。何者か、でしかない。
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