運針の、記憶/望月 ゆき
 
気づいたときには、わたしが 
わたしという輪郭に 縫いしろを足して 
日常から切りとられていた 
景色はいつも、ひどく透明なので
ふりかえっても もう
戻るべき箇所を、確かめることができない 
日々のあわいで耳をすます と 
遠くの受粉の音がきこえる その、 
くりかえされる生命の営みの隙間に入りこんだときにだけ 
わたしにことばが与えられる 
何度も生まれて、何度も死んでいるのに  
わたしは誰の中にもいたことがない 
縫いしろのぶんだけ余計なわたしは 
ただ歩くことも容易ではなく ときどき 
見知らぬ誰かに、真ん中で折られて 
わたしの半分
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