つぎはぎ/fuchsia
 
ある日、わたしの腕と脚が家出をした。
それは突然で、とても信じられることではなかったが、確実な真実だった。

腕と脚が出ていってから、わたしは一日中泣いてすごすようになった。
だって、腕も脚もない。
歩きまわって捜すことも、手紙を出すこともできないのだから。
何日かたって、泣き腫らした目で腕と脚を見た。
彼らは窓の外からわたしを見ていた。
わたしは彼らに「帰ってきて」とは言わなかった。
惨めで情けない気がしたのだ。
その言葉を口にしたとたんプライドが音をたてて崩れていくような、そんな気が。
腕と脚はそれきり現れなくなった。
彼らはどんな言葉を望んでいたのだろう。
わたしがプライドを捨てていたら帰ってくるつもりだったのかもしれない。

わたしの中に生まれたのは後悔、後悔。

いま、わたしは
後悔でできた、新しい脚で立ち、
後悔でできた、新しい腕で生きている。

違和感はいずれ消え、わたしの一部になる。
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