想い出横丁 /
服部 剛
杯をあげたものだ
あいつは去年結婚し
俺はまだ呑気に街を泳いでいる
焼魚定食を食べ終え
賑わう店を出たこの路地に
戦後五十年の間に零れた
無数の笑いと涙が
滲んで消えた
( 今夜も決まった時刻になると
( 生ぬるい風に混ざって
( 片足の無い軍人の面影が
( 細い路地を通りすぎる
広い横断歩道に出た俺は
口に残った噛み砕けない魚の骨を
舌先から吐き棄て、
人込みに紛れながら
信号が青になる瞬間を、待っている。
戻る
編
削
Point
(4)