涅槃/こんぺき13ごう
 
水のなかを漂っていた。
 そこは始まりも終わりもない穏やかさに満ちていた。
 なつかしくたおやかな調べが漂っているようでもあった。
 海面から離れるにつれ、お日さまは少しずつ光を忘れるだろう。

 けれど、なつかしい調べはやさしく包むことを忘れないだろう。

 血の海にわたしが姿をみせたとき、なぜわたしが泣いたのか、
 もはや人間として生きるわたしには思い出せないのだ


戻る   Point(5)