雨のスピード/A道化
 



あなたが見上げている
タクシーの水面、を過ぎていく雨のスピードに
わたしたちは削り取られている
飛び去ってゆく、見知らぬパーティー
灯に濡れたアスファルトの急流
きらきら、きらきらと


呼吸と呼吸で不透明にして隠して表面積を、あなた、
内側に折り込んでふたりの小さな秘密にしてしまいたい


だからわたしたちはもっと近くで息吐いて小さく折り合って
ずっとそうしていなくてはならないのにあなたは水面を見上げ
雨の影の過ぎてゆく仄明るいその背中のスクリーンにもたれる様に
沈んでいるわたしの影はいつまでそこに沈んでいられるのか
わからないのに、今この体がここにその影がそこにあることしか
確かじゃないのに


それらさえも雨のスピードに
ああ、きらきらと削り取られてゆく


2008.6.26.
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