いけない/あすくれかおす
 




(波の音、)

過ぎゆくものを
尊しと思いつつ
記憶も躊躇いも
心に残さず

静かなものにこそ
いっそう厳しく答え
逆巻いてくるものには
烈情を抱かず

(漁火が遠ざかっていく、)

夜の風景は沈黙をまもり
言葉が橙の光を帯びて
どれも間違いに見えてしまうが

新しきものは元より
この源に在りはしない

そういった瞬間的なよぎりを
船尾供養にして港を去る
左手で不器用に傘を握って
ガードレールを真っ二つに切る動作

(警笛なる、)

音を振り向かない努力をする
地面を蹴りつけると何だか悲しくなる
何にも欲しがってはいないが

いけない 
また嘘をついてしまう








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