サナトリウム/梨玖
 
他人の体温もなく、ひとり
 
影ができる 夕暮れ時

文字盤の無い時計の刻む、音

呼吸の音のひとつぶん、重なる



鈍色の空に溶けた残像

夢現に かすかな足音をきく

同じ窓で、逆さまの月を見ていた

呼吸の音のふたつぶん、 重なる


「きっともう 入れば最後、出られはしない」


少しだけ、手を伸ばせば、影はひとつになった

闇に際立つ、白い腕で抱きしめる

掴んだはずの背中に 月が浮かぶ


香るのは只 薬品の匂い

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