「 ふれてください 」 /服部 剛
べろんべろんに酔っ払い
狸のつらでゆれる地面を千鳥足
今夜の塒(ねぐら)のねっとかふぇの
個室のドアを開く
うつむいたスタンドの頭に
貼られたシールに書かれた
「 ふれてください 」
千鳥足のこの俺に
「ふれてください」
なんてゆってくれる奴ぁ
お前のほかに誰もおらんぞ
おいこらスタンド
そんなにお前も寂しいか
「 ふれてください 」に
この手をのせると
狭い個室は ぽっ と
仄かに明るくなった
ほんとうは
老若男女御多分漏れず
口にはしない( ふれてください )を
人知れず呟いてる密かな声
[次のページ]
戻る 編 削 Point(7)