晴天の雨 /服部 剛
 
海沿いの駅のベンチに 
腰かけた老婆はふたり 
ひそひそ話で 
地面を指さしている 

そぼふる雨の水溜りに 
浮かぶ 
誰かが落とした 
一枚の切符 

やがて聞こえる 
遠鳴りの踏切に 
老婆達は 
ゆっくりと腰を上げる 

ふたりの曲がった背中に 
続いて 
水溜りに濡れた誰かの切符を、 
僕も跨(また)ぐ。

ブレーキ音を軋ませて 
小さいホームに停車する
「鎌倉行き」の江ノ電の 
開いた口に、吸いこまれる。 

木目の床に立って眺める 
車窓の外は 
いつのまにか、晴れた海。 

幾重もの小波に 
水糸のひかる不思議な雨が、
降りそそぐ。 




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