河原の記憶/小川 葉
 

 しかし、一旦、とりとめのない妄想をしてしまっていた私は、やはりお父さんと子供は、一度死んでいた時間があったことは間違いないと、まだ思っていました。たしかに惨劇があって、そうして何かの奇跡により、二人は生き返ったのだけれども、そんなことがあったとは、二人は知らないのです。なぜなら二人はそれまで死んでいたのだから、死んでいるあいだの記憶はないのだから、知らない。たとえば、自分が産まれる前の記憶、それは母のおなかの中に自分が現れる前の記憶というべきでしょうか、つまり自分が誕生する前とは、死なのです。お父さんと子供にとって、あの惨劇があった記憶、あの惨劇によって死んでから今までの記憶、つまり、こうし
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