ハクチと呼ばれた少女/影山影司
んだ。旅行記は電車の中で読み、旧友に出会った帰りには青春小説を愛読した。
書物をせせこましく教養だ知識などといって読む輩は下劣だ。
特別な環境で特別な諸を読む、するとどうだろう。記憶よりも深く朧気な部位、思い出が充足し、ただの一冊が忘れがたい名作となるのだ。僕は特別な名作を集めることを、至上の幸福としていた。
少女は何年たっても少女のままだった。
胸は膨らまず背は伸びず、幼い顔立ちは幼いままに美しさを増した。
少女は貪欲に書を読んだ。僕の愛蔵品を読み尽くす勢いだ。まるで芋虫が変態を行うために、異常な早さで葉を食い進むように。少女は僕が居ない時は眠り、僕が来るとじっと黙って書を広げるのを待っていた。
黙々と読み進める少女の横顔はまさしく知性に溢れている。
僕の思い出はどんどんと上書きされていった。
今までの、外界のノイズに溢れた思い出じゃない。
どこまでも少女とのまっしろに澄んだ思い出に上書きされていく。
少女も僕と共有した思い出を重ねていく。
この世は腐っているが、僕と少女の世界だけは美しく光り輝く。
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