夜の声が/銀猫
 
異国の時計塔を真似たチャイムが
終わっていない今日を告げ
青白い街路灯や
オレンジに仄めく窓の
表面をなぞる高音は
濃紺の夜に飲み込まれ
いつしか遠い列車の轍の軋みや
姿の無い鳥の声と同化する


雨の上がった湿度を
髪で感じながら
わたしはまだ
まとわりつく哀しさの理由を
探せずにおり、
涙もなく嗚咽している

   泣けない
   泣けない

   ほんとうのかなしみ方を
   忘れてしまった、か
   朽ちかけた心の奥で
   いつかの自分は幽閉されている
   
   ああ、
   指先から生まれる言葉は
   とても黒い色をしている


またチャイムが鳴った
明日ならどこかへ
歩いてゆけるだろう





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