【小説】僕らはいつだって本の虫なのサ/影山影司
 
で虹色の羽の表面に、細かなジグザグが浮かぶ。
 本の虫は本を食う。インクの芳香がこびり付いた上質の紙を食い、その情報をそのまま羽に写し取る。極一部の学者、または熱烈な虫狂いのみがそれを読み取ることができた。勿論熟練した技術と、忍耐、それに知識はもちろんのこと、虫の死骸を保存するための高価な液剤、その他設備費。貴族か士族でもない限り、虫狂いは貧しい生活を強いられた。

 もっとも、彼はそんなこと全く意に介さなかった。
 嫁も取らず、親を早くに亡くし、一人で生きてきた彼は
 今までもこれからも、虫の羽を眺めながら年老いていくのだ。
 死ぬときは乾涸らびて、背筋を丸めたまま死ぬであろう。
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