日向の道 /服部 剛
 
一週間後の月曜日 
八十八の祖母の脳内に転移した 
二つの腫瘍にレーザーを当てる為 
頭蓋骨に四つの穴を開けるという 

三十三の孫は 
何も出来ずに枕辺に坐り 
祖母の呟く嘆きに 
黙って幾度も頷いた 

掛軸の横に置かれた木箱に 
頭を入れた三味線が 
一本凛と立っている 

若くして夫を亡くし 
月夜の晩に 
噛み締めた涙を 
自らの手で拭っては 
命を賭けて 
二人の子供を育てた祖母の 
昔より丸まった背中に 
折れることの無い 
一本の筋金が入っている 

枕辺の孫は
只一つの願いを
一枚の絵画に喩え 
祖母に呟く 

( トンネルの暗闇を抜けた出口に・・・ ) 

「 暖かな日溜りの川沿いを 
  祖母の傍らに寄り添う耶蘇と共に 
  二人三脚で往くふたりの背中   」 

月曜日の手術を終えた 
病室のベッドで 
開いた瞳の上から呼びかける 

息子の顔がある 
娘の顔がある
嫁の顔がある 
孫の顔がある  

遠い空の下に嫁いだ 
孫娘の祈りがある 







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