白い道 /服部 剛
道を歩きながら
開いた本のなかに
在りし日の老いた詩人は独り
捲れる頁から頁へ渡り歩く
無声映画の季節
*
冬
上野駅の踏み切りの橋の上から
見下ろす線路にゆっくり走り
白い煙を吐き出す汽車や
背後に広がる
夜の浅草の街灯りを眺め
春
飛鳥山公園の
繚乱たる桜吹雪に包まれながら
杯を手に人々の賑わう真昼の坂を
ステッキを手に下り
夏
家の近所の公園に立つ
松の黒い幹を仰いだ
緑の針の群(むらが)る上に
かなかな 天の夕暮れにエコーする
蜩の音に耳を澄まし
*
道を歩きながら
開いた本の余白に
ぷつぷつ
天から落ちる涙の雨に
透けた滴の斑点(はんてん)は群り
白い病の本を手に
身を屈めた私の
心の余白に
ぷつぷつ
透けた滴の斑点は群り
ふと立ち止まり
顔を上げれば
誰もいない真白い道が
草原の間をまっすぐに
空の彼方へ
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