白い看板 〜週末の夢〜 /服部 剛
 
ネオン街で同僚と飲んで
赤い顔ではしゃいだ夜遊びの後
やけに寂しい帰り道 

終電待ちのホームに並び 
線路越しに見える 
広告募集中の真白な看板が 
自分のこころのように見える 

耳に入れた
イヤフォンから聞こえる
酔いどれの唄 

生温い風の幽霊が彷徨う 
裏ぶれた街の路地裏を語る 
嗄れ声 

ホームに入って来る終電の 
開いたドアに吸いこまれる
飽和した人々の列に続いて 
空席に腰を下ろす 

酔いどれの子守唄を聞く内に 
首をかしげた 
転寝の間に夢見る 
誰もいない夜の部屋 

テレビには 
あの看板と同じ 
真白な画面のひかり  

テーブルに置かれた灰皿に 
捩じ伏せられた煙草の先の 
消えかかる紅い火から
揺らめいて暗闇に昇る
煙の人形 

転寝から目覚めると 
すっかり人気無い車内の 
向かいの席には 
よれたネクタイを床に垂らし 
座席にうつ伏せる中年の男 

ドアの開いた
無人のホームの暗がりに  
誰かが落とした一輪の 
白い薔薇 




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